2010年 06月 26日
メモ:幼友達2
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先に到着した近衛隊が、演武場を囲んでいた。まるで忍び込むようにその人垣を通り抜けるのに、今ではタムドクも慣れた。近衛兵の助けで胴だけの小さな鎧を着ると、嬉々として自分の木剣を取り出した。それを見たコ将軍は、微笑んで壁際の棚から一本取った。
「太子様。今日からこちらをお使いください。」
「軍隊の?」
「もう充分お使いになれます。」
少年の真っ白な頬に少し赤みが差した。将軍から木剣を受け取ると構えて振ってみる。頭上から斜めに斬り下げると返す刀で受け、擦り上げて右脇から突く。腰の据わった見事な剣術の型だった。夢中になって、習い覚えた型を立て続けに行う。将軍は初めて演武場を使った時のことを思い出した。
「槍の練習をするだけなのに、どうしてこんなに護衛が多い?」
演武場を囲む近衛隊に困惑して、タムドクはコ将軍を振り返った。
「陛下のご指示です。」
予想した通りの答えに、タムドクは少し苛立ったように見えた。自分の武芸の鍛錬は隠さなければならないことなのだ。棒を固く握り、一二度地面を突いた。
いつもの父王の言葉がタムドクの頭を巡っていた。
(お前が賢く、敏捷なことを誰にも知られてはならない。弱くて何もできないと皆に信じ込ませるのだ。皆がお前のことを忘れるように。そうすればお前は安全に過ごせる)
王の言葉はタムドクを一人ぼっちで隔離した。優れた教師が学問を教え、近衛隊長が武芸を鍛えたが、太子はいつも一人だった。タムドクは従兄弟のホゲのことを思った。チュシンの星が輝く夜に生まれたと言われる従兄弟は武芸に秀で、軍と遠征までしている。誰かが自分に害をなすことを父は恐れているようだが、ホゲは身を案じないのか。王の居室でそう尋ねると、父王は厳しい表情で穏やかに答えた。
「聡いお前にはわかっているだろうが、わたしは後ろ盾のない王だ。お前を十全に守ってやれないかもしれない。お前は王になるまで、生き延びねばならないのだ。」
自分が王位につく、それは父王の逝去ということだ。嫌だ。そんなこと想像もできない。ホゲのヨン家は強大な権力を誇り、叔母を筆頭にあからさまに王を軽んじる。貴族会議に集う各部族の長は一筋縄ではいかない。その中の誰かが、自分に何かするとでもいうのだろうか。タムドクの考えはいつも堂々巡りで結論には行き着かなかった。考える材料が足りないからだ。きっと子どもの自分には、知りえないことが多すぎるのだ。だからって、何もできないふりをしてろだって!ひとりっきりで!学問で鍛えられた合理的な頭と、叶わないことの多い暮らしが生んだ諦めのよさで、下降する思いの渦から必死で浮き上がる。答が出ないことを考えるより、せめて身を守ることを覚えよう。
そうしてタムドクは護衛の将軍に武芸の手ほどきを請うたのだが、それは将軍の知るところではない。槍でも剣でも。とにかく何でも学びたい。できれば素手でも。少年の申し出は将軍を驚かせた。王は武芸の修練に渋い顔をしたが、タムドクの運動の能力はすばらしかった。理由を考えて動くので覚えが早い。今では実戦の武芸のほかに、請われるまま兵法も教えていた。砂地が水を吸うように、少年はすべてを貪欲に吸い取った。本人にしてみれば、他にすることもなく、体でも動かしていなければおかしくなりそうだったのだが。
「コ将軍」
固められた赤土の上で、タムドクが木剣を構えていた。数カ所の櫓に囲まれた土の広場の真ん中に立ち、静かに手合わせを待っている。コ将軍は槍で応じようと棒を取り上げた。また背が伸びて、少年はひょろりと華奢にさえ見える。ハアッと気合いを発し、タムドクの剣が突き出された。やおら互いに打ち付ける。タムドクは無心で打ち、薙ぎ払い、また突いた。
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ドラマを見返していないので結構ウロおぼえ。
「太子様。今日からこちらをお使いください。」
「軍隊の?」
「もう充分お使いになれます。」
少年の真っ白な頬に少し赤みが差した。将軍から木剣を受け取ると構えて振ってみる。頭上から斜めに斬り下げると返す刀で受け、擦り上げて右脇から突く。腰の据わった見事な剣術の型だった。夢中になって、習い覚えた型を立て続けに行う。将軍は初めて演武場を使った時のことを思い出した。
「槍の練習をするだけなのに、どうしてこんなに護衛が多い?」
演武場を囲む近衛隊に困惑して、タムドクはコ将軍を振り返った。
「陛下のご指示です。」
予想した通りの答えに、タムドクは少し苛立ったように見えた。自分の武芸の鍛錬は隠さなければならないことなのだ。棒を固く握り、一二度地面を突いた。
いつもの父王の言葉がタムドクの頭を巡っていた。
(お前が賢く、敏捷なことを誰にも知られてはならない。弱くて何もできないと皆に信じ込ませるのだ。皆がお前のことを忘れるように。そうすればお前は安全に過ごせる)
王の言葉はタムドクを一人ぼっちで隔離した。優れた教師が学問を教え、近衛隊長が武芸を鍛えたが、太子はいつも一人だった。タムドクは従兄弟のホゲのことを思った。チュシンの星が輝く夜に生まれたと言われる従兄弟は武芸に秀で、軍と遠征までしている。誰かが自分に害をなすことを父は恐れているようだが、ホゲは身を案じないのか。王の居室でそう尋ねると、父王は厳しい表情で穏やかに答えた。
「聡いお前にはわかっているだろうが、わたしは後ろ盾のない王だ。お前を十全に守ってやれないかもしれない。お前は王になるまで、生き延びねばならないのだ。」
自分が王位につく、それは父王の逝去ということだ。嫌だ。そんなこと想像もできない。ホゲのヨン家は強大な権力を誇り、叔母を筆頭にあからさまに王を軽んじる。貴族会議に集う各部族の長は一筋縄ではいかない。その中の誰かが、自分に何かするとでもいうのだろうか。タムドクの考えはいつも堂々巡りで結論には行き着かなかった。考える材料が足りないからだ。きっと子どもの自分には、知りえないことが多すぎるのだ。だからって、何もできないふりをしてろだって!ひとりっきりで!学問で鍛えられた合理的な頭と、叶わないことの多い暮らしが生んだ諦めのよさで、下降する思いの渦から必死で浮き上がる。答が出ないことを考えるより、せめて身を守ることを覚えよう。
そうしてタムドクは護衛の将軍に武芸の手ほどきを請うたのだが、それは将軍の知るところではない。槍でも剣でも。とにかく何でも学びたい。できれば素手でも。少年の申し出は将軍を驚かせた。王は武芸の修練に渋い顔をしたが、タムドクの運動の能力はすばらしかった。理由を考えて動くので覚えが早い。今では実戦の武芸のほかに、請われるまま兵法も教えていた。砂地が水を吸うように、少年はすべてを貪欲に吸い取った。本人にしてみれば、他にすることもなく、体でも動かしていなければおかしくなりそうだったのだが。
「コ将軍」
固められた赤土の上で、タムドクが木剣を構えていた。数カ所の櫓に囲まれた土の広場の真ん中に立ち、静かに手合わせを待っている。コ将軍は槍で応じようと棒を取り上げた。また背が伸びて、少年はひょろりと華奢にさえ見える。ハアッと気合いを発し、タムドクの剣が突き出された。やおら互いに打ち付ける。タムドクは無心で打ち、薙ぎ払い、また突いた。
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ドラマを見返していないので結構ウロおぼえ。
by kuro-kmd
| 2010-06-26 01:41
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