2010年 07月 20日
月光浴(R18)
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反転するのもなんだかなー、でもマズいかしら…
R18です。お気をつけて。
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国境への親征は久しぶりのことだ。王を戴いた軍は士気が上がり、いささか興奮気味でさえある。最近では少し前線を遠のいていたが、さほど大きな諍いでなくとも、太王が出向くことはままあった。
「王様はなんだかんだ言って、ご自分で出られるのがお好きだからなあ」
呆れたような声を作ってチュムチが言う。さほど切迫感のない帰路の野営地では、疲れが見えない兵たちが飯にありつこうとにぎやかに声をあげ、急ごしらえの竃からもくもくと煙が上がっていた。汁の匂いが漂い、チュムチの腹が鳴ると勺を持ったタルビが笑う。チュムチは鎧を着けず、王も鋼の胸当てという軽装だった。戦ではあるがすでに戦場は遠く、陣はのんびりとしたものだ。小さな木立が点在する窪地は見晴らしがよく、水場にも恵まれた格好の野営地だった。
王があたりを見回し、もの言いたげに口を開くと、チュムチが素っ気なく言葉を被せた。
「もうメシだってのに、あいつはどこへ行った?間合いの悪いやつだ。喰いはぐれるぞ。」
笑いながらタルビが言う。
「スジニ、いえ朱雀将軍は沐浴じゃないでしょうか、髪を洗いたいとおっしゃってましたから。」
スジニはどんなところでも素早く沐浴を済ませる名人だった。土埃にまみれた行軍で、いつも一人だけこざっぱりとしている。
「あいつの腕っぷしなら一人でふらっとどこにでも行けるしな。それに恐ろしくて誰も覗かんさ。どんな目に遭わされるか」
チュムチが横目で王の顔を伺い、言葉は尻すぼまりに消えていった。黄昏の中、俯いて笑う王の歯が白い。タルビに渡された丼にチュムチが食らいつく間に、王はぶらぶらとその場を離れた。ひとりの近衛兵が気づき、離れて後を追う。王は護衛をさして気にもしない様子で、そのままゆっくりと歩を運んでいた。
設えたような岩場だった。木立に囲まれた泉は、湧き水が溜まる窪みを大きな岩が囲み、さらに水を求める小さな灌木が腰ほどの高さに茂っている。手拭が二三枚、灌木に広げられ、その横に長い軍靴がくたりと置かれていた。適当に脱ぎ捨てたように見える衣類は、実は次に着る順番に重ねられている。水に一番近い岩の上に、弓と矢筒、短刀が置かれているのを見て王がにやりと笑った。油断していないな。
ちょうど昇ってきた月が樹々を抜けて、辺りを銀色に照らしはじめた。ぱしゃ、と水音がする。肩口に水を撥ねかけたスジニが、そのまま両腕で胸を抱き、水の中に立っていた。水滴をまとった肌の稜線が銀色に輝く。滑らかな背中から腰の線、背の窪みが光を弾いていた。首を傾げて長い髪を水に落とすと、そのまま両手で揉むようにしながら肩まで水に沈んだ。
王の背後でことりと音がする。ようやく近衛兵のことを思い出し、王は腕を回して護衛を遠ざけた。お前にわたしの銀色の魚を見せるわけにはいかない。そう呟いて暗がりで片眉を上げ、微笑んだ。
揉むように髪を洗っていたスジニが頭を反らし、重たく水を含んだ髪が真っすぐに垂れる。そのまま仰向けに水の上に上体を浮かべると、形のいい乳房から細い腰までが月光に蒼く晒された。美しい、いきもの。まるで人ではないようだと、不思議な光景に王は飽くことなく見とれた。悪戯っぽくぱしゃぱしゃと高い水音をたてて白い脚が動く。スジニは水面の月光を散らして遊んでいるようだった。やがてそれにも飽きてようやく身を起こすと、屈んだままそろそろと水面を動いた。
灌木に広げられた手拭に白い手が伸びる。闇から伸びた一回り大きな手が、いきなりその手首を掴んだ。ぎょっとしたスジニが思わず短刀に手を伸ばす。暗がりに小さく笑いが起こった。
「世にも珍しい、銀色の魚を捕まえたぞ。今日の夕飯はこれにしよう。」
そのまま引き寄せられ、スジニはずぶ濡れの全身を岩に座った王に預けることになった。
「な、ちょっと、離してください!!もう、どうしてここが—尾けたんですか!?」
きっと全身を朱に染めているのだろうが、月光を浴びた白い身体は、やはりその稜線だけがただ蒼く光っている。
「水を辿って来た。沐浴と聞いたので」
「の、覗きに来たんですか!?もう!!信じられない—」
腕の中で必死に身をよじるが、ただ王の衣服を濡らすだけで一向に逃れられない。膝の上に横抱きにされて、観念したようにスジニが顎を上げて王を見上げた。むっつりとふくれている。思わず吹き出した王の胸をスジニが突いた。
「そう笑わないでください。ひどいじゃないですか。わたしは丸腰—」
「素っ裸というんだ」
そのまま口づけられる。深く差し込んだ舌は、水でひんやりとした肌の奥に、血の暖かさを探り当てた。そのまま首筋を這う。
「ずいぶん冷えているが、これはほんとうに人間かな?もう少し暖めてみようか」
悪戯っぽく言うと、胸の頂きを含んで甘く噛む。仰け反った身体が軋み、思わず声が漏れた。
「そういえば忠実なお前の部下が、ちゃんとわたしを護衛してきてくれたぞ。」
ぴくりと身体が跳ねる。だからあまり声を出すなよ。堪えていろ。憤慨したスジニが身を捩るが、やはり逃れることはできない。内股を辿った掌が奥を探る。水ではないもので暖かく濡れたそこを、満足げな指が嬲った。腰を捻ってスジニが逃げる。楽し気に王の手が追う。やがて片腕ががっしりと細い肩を抱え込み、もう片腕が大きく膝を割った。
瞳が煌めいたような気がした。全身を預けたままスジニが後ろへ身体を引き、王はそのまま落ちるように水中に引きずり込まれていた。ずぶ濡れの前髪を掻き上げると、丸い目が光を弾く。スジニが吹き出した。
あはは、申し訳…あははは!
こいつ。よくもやったな。透き通った水の中で、王がスジニを捕まえる。スジニは逃げなかった。腰まで水に浸かったまま、水底の岩に座って王はスジニを抱き寄せた。正面から膝に乗せると、濡れた重い髪をかき分けて唇を寄せる。唇をあわせたまま囁いた。
「お前もいいところだったくせに。困った魚だ。」
かすかに漏れはじめた喘ぎまでが銀色に光る。月が中天に昇ろうとしていた。
R18です。お気をつけて。
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国境への親征は久しぶりのことだ。王を戴いた軍は士気が上がり、いささか興奮気味でさえある。最近では少し前線を遠のいていたが、さほど大きな諍いでなくとも、太王が出向くことはままあった。
「王様はなんだかんだ言って、ご自分で出られるのがお好きだからなあ」
呆れたような声を作ってチュムチが言う。さほど切迫感のない帰路の野営地では、疲れが見えない兵たちが飯にありつこうとにぎやかに声をあげ、急ごしらえの竃からもくもくと煙が上がっていた。汁の匂いが漂い、チュムチの腹が鳴ると勺を持ったタルビが笑う。チュムチは鎧を着けず、王も鋼の胸当てという軽装だった。戦ではあるがすでに戦場は遠く、陣はのんびりとしたものだ。小さな木立が点在する窪地は見晴らしがよく、水場にも恵まれた格好の野営地だった。
王があたりを見回し、もの言いたげに口を開くと、チュムチが素っ気なく言葉を被せた。
「もうメシだってのに、あいつはどこへ行った?間合いの悪いやつだ。喰いはぐれるぞ。」
笑いながらタルビが言う。
「スジニ、いえ朱雀将軍は沐浴じゃないでしょうか、髪を洗いたいとおっしゃってましたから。」
スジニはどんなところでも素早く沐浴を済ませる名人だった。土埃にまみれた行軍で、いつも一人だけこざっぱりとしている。
「あいつの腕っぷしなら一人でふらっとどこにでも行けるしな。それに恐ろしくて誰も覗かんさ。どんな目に遭わされるか」
チュムチが横目で王の顔を伺い、言葉は尻すぼまりに消えていった。黄昏の中、俯いて笑う王の歯が白い。タルビに渡された丼にチュムチが食らいつく間に、王はぶらぶらとその場を離れた。ひとりの近衛兵が気づき、離れて後を追う。王は護衛をさして気にもしない様子で、そのままゆっくりと歩を運んでいた。
設えたような岩場だった。木立に囲まれた泉は、湧き水が溜まる窪みを大きな岩が囲み、さらに水を求める小さな灌木が腰ほどの高さに茂っている。手拭が二三枚、灌木に広げられ、その横に長い軍靴がくたりと置かれていた。適当に脱ぎ捨てたように見える衣類は、実は次に着る順番に重ねられている。水に一番近い岩の上に、弓と矢筒、短刀が置かれているのを見て王がにやりと笑った。油断していないな。
ちょうど昇ってきた月が樹々を抜けて、辺りを銀色に照らしはじめた。ぱしゃ、と水音がする。肩口に水を撥ねかけたスジニが、そのまま両腕で胸を抱き、水の中に立っていた。水滴をまとった肌の稜線が銀色に輝く。滑らかな背中から腰の線、背の窪みが光を弾いていた。首を傾げて長い髪を水に落とすと、そのまま両手で揉むようにしながら肩まで水に沈んだ。
王の背後でことりと音がする。ようやく近衛兵のことを思い出し、王は腕を回して護衛を遠ざけた。お前にわたしの銀色の魚を見せるわけにはいかない。そう呟いて暗がりで片眉を上げ、微笑んだ。
揉むように髪を洗っていたスジニが頭を反らし、重たく水を含んだ髪が真っすぐに垂れる。そのまま仰向けに水の上に上体を浮かべると、形のいい乳房から細い腰までが月光に蒼く晒された。美しい、いきもの。まるで人ではないようだと、不思議な光景に王は飽くことなく見とれた。悪戯っぽくぱしゃぱしゃと高い水音をたてて白い脚が動く。スジニは水面の月光を散らして遊んでいるようだった。やがてそれにも飽きてようやく身を起こすと、屈んだままそろそろと水面を動いた。
灌木に広げられた手拭に白い手が伸びる。闇から伸びた一回り大きな手が、いきなりその手首を掴んだ。ぎょっとしたスジニが思わず短刀に手を伸ばす。暗がりに小さく笑いが起こった。
「世にも珍しい、銀色の魚を捕まえたぞ。今日の夕飯はこれにしよう。」
そのまま引き寄せられ、スジニはずぶ濡れの全身を岩に座った王に預けることになった。
「な、ちょっと、離してください!!もう、どうしてここが—尾けたんですか!?」
きっと全身を朱に染めているのだろうが、月光を浴びた白い身体は、やはりその稜線だけがただ蒼く光っている。
「水を辿って来た。沐浴と聞いたので」
「の、覗きに来たんですか!?もう!!信じられない—」
腕の中で必死に身をよじるが、ただ王の衣服を濡らすだけで一向に逃れられない。膝の上に横抱きにされて、観念したようにスジニが顎を上げて王を見上げた。むっつりとふくれている。思わず吹き出した王の胸をスジニが突いた。
「そう笑わないでください。ひどいじゃないですか。わたしは丸腰—」
「素っ裸というんだ」
そのまま口づけられる。深く差し込んだ舌は、水でひんやりとした肌の奥に、血の暖かさを探り当てた。そのまま首筋を這う。
「ずいぶん冷えているが、これはほんとうに人間かな?もう少し暖めてみようか」
悪戯っぽく言うと、胸の頂きを含んで甘く噛む。仰け反った身体が軋み、思わず声が漏れた。
「そういえば忠実なお前の部下が、ちゃんとわたしを護衛してきてくれたぞ。」
ぴくりと身体が跳ねる。だからあまり声を出すなよ。堪えていろ。憤慨したスジニが身を捩るが、やはり逃れることはできない。内股を辿った掌が奥を探る。水ではないもので暖かく濡れたそこを、満足げな指が嬲った。腰を捻ってスジニが逃げる。楽し気に王の手が追う。やがて片腕ががっしりと細い肩を抱え込み、もう片腕が大きく膝を割った。
瞳が煌めいたような気がした。全身を預けたままスジニが後ろへ身体を引き、王はそのまま落ちるように水中に引きずり込まれていた。ずぶ濡れの前髪を掻き上げると、丸い目が光を弾く。スジニが吹き出した。
あはは、申し訳…あははは!
こいつ。よくもやったな。透き通った水の中で、王がスジニを捕まえる。スジニは逃げなかった。腰まで水に浸かったまま、水底の岩に座って王はスジニを抱き寄せた。正面から膝に乗せると、濡れた重い髪をかき分けて唇を寄せる。唇をあわせたまま囁いた。
「お前もいいところだったくせに。困った魚だ。」
かすかに漏れはじめた喘ぎまでが銀色に光る。月が中天に昇ろうとしていた。
by kuro-kmd
| 2010-07-20 21:05
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