2010年 10月 15日
出兵(改)
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そうか、逆転ねぇ…
というので書き直し。
週末だっていうのに、修正キター(泣)
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渋々とスジニの出兵を認めると、高句麗の太王は長い裾を翻して立ち上がった。軍事の話をする時に、丈の長い衣を着ているのは珍しい。緊急の会議は予定外のことで、近衛隊長の出兵もまた想定外。太王の護衛として宮に近衛隊を残し、騎馬隊を率いて南の国境へと下る。百済国境でのいざこざはいつものことだが、寵妃を単独で出すことに、太王は明らかに不機嫌になっているようだった。
「そう淋しがらないでください、すぐ戻りますから。」
スジニの言葉に冗談を返したものの、いつもは見られない何かが、かすかに眉間に浮かんでいる。それはよほど側近い者にしか察することはできなかったのだが。
出兵の日。
早朝、まだ薄暗い光の中、人払いされた部屋には、革と鉄が立てる固い音しかなかった。常ならば白絹の夜着のまま、まず将軍が太王の鎧の世話をして、次に王がそっと将軍の夜着を脱がせて着せ付ける。こと出兵にあって、太王が絹の衣を着たままなのははじめてのことだった。
早々に起き出して太子宮に戻り、育ての子である太子に挨拶をして、戻った時にはすでに下着も鎖帷子も、かっちりと着けていたからか。不機嫌そうなタムドクの視線に肩をすくめ、スジニはされるがままに立っていた。乱暴に腕が突っ込まれ、抱きつくようにして胴を着せると、肩を押されてぐるりと身体が回された。一筋に結わえた髪を掴んで前に回すと、荒っぽく紐が引かれ、背が閉じられていった。
ふたりとも無言のまま、革帯を締める。最後は自分で端を折り込みながら、スジニは身体を回して椅子に座った王に向き合った。
太王は艶のある絹の宮中服をまとい、礼装の沓を履いていた。一筋の乱れもない結髪、輝く冠をつけて無言で坐っている。出兵の前、神殿で戦勝を祈り、その後大殿で兵に言葉をかけるための装いだ。このような小さな出兵では、隊長以上の兵と将軍は大殿からそのまま厩舎へ、それから城門を出て練兵場の軍に合流する。
「気をつけますから。一人の兵も無駄には死なせません。」
まだご機嫌斜めかと、将軍は無言でかぶりを振る王の目を覗き込んで、いつもの約束を繰り返した。その奥には確かに笑みがある。スジニの口元が小さく笑った。
「王様の国はわたしが守ります。」
一歩を近づくと、太王が見上げる。そっと手を伸ばして頭を抱き、スジニはその白い額に唇をつけた。
「これではまるで逆だな。」
目を瞑り、まるでいたわり護るような唇を受けた王が笑う。
「今日はこれでいいんです。」
スジニも微笑んだ。
では口づけをしてくれよ。
目と目が合い、無言の求めに唇は半ば開いている。頭を抱いたまま、スジニは深く屈み込んだ。椅子に手を掛けたまま、浅く坐って仰向いたタムドクの顎の線が際立つ。覆い被さるようにして、ゆっくりと唇をあわせ、どちらからともなく開いた。深くかみ合った顎が何度も入れ替わり、溺れそうな息を吐いてようやくスジニが顔を上げた。
すぐに手甲をつけた手首がぐいと引かれた。
スジニの頭を後ろから引き寄せる。貪るように絡んだ舌が、ゆっくりと互いを確かめあった。
やがて将軍の鎧が小刻みに震え出すと、ようやく解放された。石壁の部屋に深い吐息が満ちた。
「では昨夜のお前を思い返して待つとする。」
—白い胸を反らし、自らその先をわたしの唇に与えたお前を。
—舌でなぶられ、わたしの頭をすべらかな内腿で締め付けたお前を。
—背後から開かれて褥を掴み、髪を振り乱して哀願したお前を。
囁きはスジニの耳を赤く染め、小さな拳が絹に包まれた滑らかな胸を突いた。さらさらと衣擦れの音が立ち、忍び笑いが起こる。すばやく身を離したが拳をとられ、筋張った長い指がそれを開いた。手のひらをざらりと舌が這う。やがて音をたてて手首に口づけると、唇が離れた。
「行って来い。」
上目遣いに言われて、将軍はもう一度王の頭を抱いた。鼻先を髪に埋め、愛おしい者の香を吸い込む。
常勝将軍、何事もなく戻れ。
滑らかな絹の肩に、スジニの笑みが吸い込まれていった。頬をすりつけ、髪に口づけ、ふたりはようやく向き直った。
というので書き直し。
週末だっていうのに、修正キター(泣)
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渋々とスジニの出兵を認めると、高句麗の太王は長い裾を翻して立ち上がった。軍事の話をする時に、丈の長い衣を着ているのは珍しい。緊急の会議は予定外のことで、近衛隊長の出兵もまた想定外。太王の護衛として宮に近衛隊を残し、騎馬隊を率いて南の国境へと下る。百済国境でのいざこざはいつものことだが、寵妃を単独で出すことに、太王は明らかに不機嫌になっているようだった。
「そう淋しがらないでください、すぐ戻りますから。」
スジニの言葉に冗談を返したものの、いつもは見られない何かが、かすかに眉間に浮かんでいる。それはよほど側近い者にしか察することはできなかったのだが。
出兵の日。
早朝、まだ薄暗い光の中、人払いされた部屋には、革と鉄が立てる固い音しかなかった。常ならば白絹の夜着のまま、まず将軍が太王の鎧の世話をして、次に王がそっと将軍の夜着を脱がせて着せ付ける。こと出兵にあって、太王が絹の衣を着たままなのははじめてのことだった。
早々に起き出して太子宮に戻り、育ての子である太子に挨拶をして、戻った時にはすでに下着も鎖帷子も、かっちりと着けていたからか。不機嫌そうなタムドクの視線に肩をすくめ、スジニはされるがままに立っていた。乱暴に腕が突っ込まれ、抱きつくようにして胴を着せると、肩を押されてぐるりと身体が回された。一筋に結わえた髪を掴んで前に回すと、荒っぽく紐が引かれ、背が閉じられていった。
ふたりとも無言のまま、革帯を締める。最後は自分で端を折り込みながら、スジニは身体を回して椅子に座った王に向き合った。
太王は艶のある絹の宮中服をまとい、礼装の沓を履いていた。一筋の乱れもない結髪、輝く冠をつけて無言で坐っている。出兵の前、神殿で戦勝を祈り、その後大殿で兵に言葉をかけるための装いだ。このような小さな出兵では、隊長以上の兵と将軍は大殿からそのまま厩舎へ、それから城門を出て練兵場の軍に合流する。
「気をつけますから。一人の兵も無駄には死なせません。」
まだご機嫌斜めかと、将軍は無言でかぶりを振る王の目を覗き込んで、いつもの約束を繰り返した。その奥には確かに笑みがある。スジニの口元が小さく笑った。
「王様の国はわたしが守ります。」
一歩を近づくと、太王が見上げる。そっと手を伸ばして頭を抱き、スジニはその白い額に唇をつけた。
「これではまるで逆だな。」
目を瞑り、まるでいたわり護るような唇を受けた王が笑う。
「今日はこれでいいんです。」
スジニも微笑んだ。
では口づけをしてくれよ。
目と目が合い、無言の求めに唇は半ば開いている。頭を抱いたまま、スジニは深く屈み込んだ。椅子に手を掛けたまま、浅く坐って仰向いたタムドクの顎の線が際立つ。覆い被さるようにして、ゆっくりと唇をあわせ、どちらからともなく開いた。深くかみ合った顎が何度も入れ替わり、溺れそうな息を吐いてようやくスジニが顔を上げた。
すぐに手甲をつけた手首がぐいと引かれた。
スジニの頭を後ろから引き寄せる。貪るように絡んだ舌が、ゆっくりと互いを確かめあった。
やがて将軍の鎧が小刻みに震え出すと、ようやく解放された。石壁の部屋に深い吐息が満ちた。
「では昨夜のお前を思い返して待つとする。」
—白い胸を反らし、自らその先をわたしの唇に与えたお前を。
—舌でなぶられ、わたしの頭をすべらかな内腿で締め付けたお前を。
—背後から開かれて褥を掴み、髪を振り乱して哀願したお前を。
囁きはスジニの耳を赤く染め、小さな拳が絹に包まれた滑らかな胸を突いた。さらさらと衣擦れの音が立ち、忍び笑いが起こる。すばやく身を離したが拳をとられ、筋張った長い指がそれを開いた。手のひらをざらりと舌が這う。やがて音をたてて手首に口づけると、唇が離れた。
「行って来い。」
上目遣いに言われて、将軍はもう一度王の頭を抱いた。鼻先を髪に埋め、愛おしい者の香を吸い込む。
常勝将軍、何事もなく戻れ。
滑らかな絹の肩に、スジニの笑みが吸い込まれていった。頬をすりつけ、髪に口づけ、ふたりはようやく向き直った。
by kuro-kmd
| 2010-10-15 20:10
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